「もっと知ってほしい 大切な人ががんになったとき」という冊子がキャンサーチャンネル(たくさんのがん啓発団体が連携し、1つのメディアとして情報発信を行うウェブサイト)で公開されています。
これを読んで、悪性脳腫瘍(グリオーマ)と白血病・悪性リンパ腫を経験したがん患者として共感した点、周囲の人に知っておいてもらえたらなあという点をピックアップしてみます。
患者さんの周囲にいる人は、患者さんの状況について「自分が一番知っている」「こうするほうが絶対にいい」などと思い込むことがあります。しかし、治療を実際に受け、その結果も引き受けるのは患者さん自身です。治療や生活についての最終的な意思決定するのは患者さんであることを理解しましょう。(p. 3)
がんは手術=完治ではない
一生つきあっていく病気と理解して大学生のときに胃がんになり、胃の3分の2を切除しました。その後、再発を防ぐため
抗がん剤治療をしたのですが、家族でさえも抗がん剤が単なる予防薬ぐらいの認識しかありません。髪の毛も抜けないので服用中のつらさを理解してもらえなかったのですが、食欲もなく色素沈着も出ました。今も手術の後遺症で常におなかの調子はよくありません。
がんは手術して終わりではなく、抗がん剤を続けている人や治療の後遺症のある人などがいます。周りからは「治ってよかったね」と言われますが、1度がんと診断されたら、治療後も頭からそのことが離れない。今もつらいことがあると理解してほしいです。(p. 7)
楽観的な発言は控え、話を「聴く」
手術後、患者さんが最も嫌うのは「がんを切ったから、もう大丈夫」といった言葉をかけられることです。「患者さんを早く安心させたい(自分が安心したい)」という周りの人の気持ちはわかりますが、患者さんは手術後も喪失体験に苦しみ、死への恐怖も消えていません。病状に対する楽観的な発言は控えたいものです。
患者さんの心が落ち着きを取り戻すまでは「聴く」ことに徹しましょう。患者さん自身が「語る」ことによって自分の苦しみを整理し、真正面から問題と向き合えるようになるからです。そして、周りの人がその気持ちをしっかり受け止めることで、患者さんは「大切にされている」という安心感も同時に得られます。(p. 14)
化学療法に伴う「精神症状」
化学療法(抗がん剤による治療)も患者さんに精神的なダメージを与えます。開始前には「抗がん剤の副作用に耐えられず、治療が中止になるのでは」といった不安に襲われるほか、治療中は全身倦怠感、吐き気、嘔吐、脱毛、手足のしびれなどの副作用が精神症状を引き起こす原因となります。
たとえば初回の化学療法で強い嘔吐を経験すると、その後、病院や化学療法を連想するものをみただけで吐き気や嘔吐が誘発されることがわかっています。これは「予期性嘔吐症」と呼ばれ、化学療法を受けた患者さんの25〜50%に起こるといわれています。(p. 14)
「痛み」と「うつ」の関係
がんにおける「痛み」と「うつ」は、コインの表裏のような関係だといわれています。がんそのものや治療に伴う痛みや苦痛を放置すると、それ自体が大きなストレスとなり、うつ状態を引き起こしたり、さらに悪化させたりする原因になります。
また、精神症状の1つとして痛みが身体に現れることもあります。その場合は、激しい痛みとともに強い不安症状などを訴えることがよくみられます。(p. 15)
治療がひと段落すると、周りの人は「治った」と考えがちです。しかし、がんは経過の長い病気です。治療が終了しても一般的には約5年、経過を観察する必要があります。また、体の症状は安定していても、患者さんの心や生活にはいろいろな変化が起こり、周りの助けを必要とすることが多々あります。
●がんの疑いがあることで落ち着かず、不安な気持ちになる
●先の見通しがわからないため、不安や心配に襲われたり、将来を悲観して深く落ち込んだりする
●「なぜ、自分だけががんになったのか」と疎外感や孤独感を強く感じる。(p. 16)
●検査などで病院に通院する日が多くなり、家庭の用事や仕事に支障を来す(p. 16)
●休養や睡眠を十分に確保しているのに疲れやだるさが取れない
●眠れない、眠りが浅い
●痛みがある(p. 16)
●再発の不安に脅かされる。体調を崩したり、どこかに痛みがあったりすると心配が募る
●がんになったことで社会的な地位や仕事、収入などを失い、喪失体験に苦しむ
●「治療したから、もう大丈夫」という周りの楽観的な対応に疎外感や違和感を持つ
●治療の後遺症に悩まされ、気分が落ち込む。
●家族や周りの人に迷惑をかけていると心苦しく思う など(p. 16)
周囲からのよかれと思ってのアドバイスも取捨選択が大切です
私ががんとわかると、知り合いや友人がよかれと思っていろいろなものをすすめてくれ
て戸惑いました。水や健康食品、身に着けるものや置物まで、なかには科学的根拠がないものをすすめる人もいます。親はわらにもすがる思いで「本当に効くの?」と心動いたこともあったようですが、断ってもらいました。
すすめる人は信じていて、親切でしてくださるので難しいのですが、そこは親に任せて、私はセカンドオピニオンを求めて病院を何か所も回り、先生のお話を聞いて勉強しました。(p. 20 )
体にふれるだけでもお互いの心が落ち着きました(p. 30)
一緒にいられるだけで幸せなんだよと伝えたい(p. 30)
必ずしも僕に全て当てはまるわけではありません。例えば昨日の記事で書いたように、「なぜ、自分だけががんになったのか」という疎外感や孤独感は僕は感じませんでした。
でも、そうした当てはまらないものでも、「きっとそういう患者さんはいるだろうなあ」と思うものも多々あり、そういうものも含めてピックアップしてみました。
僕自身は、特に昨年以降の白血病・悪性リンパ腫の治療では、本当に精神的にも肉体的にも辛かったこともあり、周囲の人たちには本当に助けられました。
オーシャンブリッジのメンバーは、闘病中の僕に心配をかけないように仕事をがんばり事業を成長させてくれ、当時取締役だった持木君は、僕の社長としての精神的、肉体的な負担と、今後も続く闘病生活を考えて、社長を引き継いでくれました。
家内と娘にも大変助けられました。家内はいつも本当に僕の体調や気分を的確に察してくれて、会話の中から僕の気持ちを引き出したり、痛いお腹をさすってくれたりと、精神的にも肉体的にも助けてくれました。退院した今でも精神的に不安を感じると、家内に話してアドバイスをもらっています。家内の臨床心理士としての経験も生きているのかもしれません。
また娘からは、お見舞いに来るだけで癒しをもらい、辛い治療を乗り越えて長期生存するための気力、精神的なエネルギーをもらいました。
ただ、娘も、僕が入院していたときは寂しかったようで、退院した今、おりに触れて僕にこう言ってくれます。
「パパがいるから、それだけでうれしい!」
この言葉を聞くたびに、「とにかく生きていることが最重要なんだ」と再確認するとともに、「絶対に病気を再発させずにこのまま克服して、娘の二十歳の誕生日を娘と家内と一緒にお祝いするんだ」と改めて人生の目標を確認しています。
この冊子はがん患者の視点から見てもよくまとまっていると思います。身近にがん患者さんがいらっしゃる方は、読んでみると新しい発見がたくさんあると思います。
▼冊子「もっと知ってほしい 大切な人ががんになったとき」