先週、4月17日火曜日に、久しぶりに東京女子医科大学病院に脳腫瘍の定期検査・診察に行ってきました。
昨年の急性骨髄性白血病での入院のために、昨年1月10日を最後に女子医大での検査と診察はしばらく中断していたのですが、体調も少しずつ回復してきたため、主治医の村垣善浩先生にご連絡して、一年三ヶ月ぶりに再開することにしました。
病院に着いて、まずは初診の受付。前回の診察から一年以上空いているため再診ではなく初診になるとのこと(秘書のIさん、一連の段取りの手配と丁寧なご連絡、ありがとうございました!)。受付後は採血。
そしてMRI検査の受付に。そこで受付の女性に「高山さん!」と声をかけられました。入院中にも放射線照射の受付にいらして毎日お世話になった方でした。昨年の急性骨髄性白血病のことなどの近況報告をお話ししました。僕のブログを読んでくださっていたようで、元気になった僕の姿を見て喜んでくれました。
久しぶりのMRIでは、これまで同様、轟音の中ですっかり眠ってしまいました。慣れというのは恐ろしいものです。最初のうちは予想外の轟音に驚いたものですが。
MRI検査が終わってから、2階の脳神経外科の受付に。村垣先生の診察室の前で順番を待っていたら、Yさんご夫妻から「高山さんですよね?」と声をかけられました。
Yさんは、今年の初めにFacebookで連絡をくださって、何度かやり取りをしていました。ご主人が脳腫瘍になり、最初は絶望に打ちひしがれたものの、僕のブログを読んで、前向きになれたとのこと。
その後、女子医大を受診され、先月、覚醒下手術を受け、無事に退院されて、この日が退院後初めての外来診察とのこと。
ご主人も、「うちも高山さんと同じで小さい子供がいるんです。子供が大きくなるのを見たいんです」「高山さんのブログと本(治るという前提でがんになった 情報戦でがんに克つ)からはたくさんの希望と勇気をもらいました」と言ってくださいました。
ブログや本を書いていると、たまに、「こんなこと書いていて、誰かのためになってるのかなあ」と疑問を感じることがあるんですが、このように実際に読んでくださった読者の方から、直接、「役に立ちました」「希望が持てました」という感想をいただくと、「ああ、自分がやっていることは、世の中のためになっているんだ」と実感できます。本当にうれしい瞬間です。ブログや本を書いていて本当によかったと思えて、これからのモチベーションになります。
Yさんとお話しした後、僕の順番が来たので、村垣先生の診察室に入りました。
村垣先生に、昨年の急性骨髄性白血病の治療経緯や近況をご報告したのち、MRI検査の結果をチェック。前回のMRI画像から特に変化はなく、全く問題なしでした。
それからいろいろと雑談。特に、最近のエセ医療、つまりエビデンスのない免疫療法や民間療法などについてお話ししました。村垣先生は、
「患者さんがそういった根拠のない治療に流されていってしまうのは、我々医者が、適切な二次治療を提示できていないことにも問題があるのではないか。一次治療が終わって、再発してしまったら、もう打つ手はありません、では患者さんは納得できないし、諦めきれないでしょう。だから何か手はないかと思って、エセ医療や民間療法にすがることになってしまいます。
そうなる前に、医師から、緩和ケアと合わせて、臨床試験なども含めた何らかの二次治療を提示してあげなければなりません。ある程度がんが進行した状態であれば、緩和ケアも必要です。でもそれだけでは患者さんも家族も受け入れにくいでしょう。だから並行して、二次治療を提示し、希望を持ち続けてもらうことが大切です。
このお話には大変納得しました。
僕自身、父、妹と二人の家族の余命告知を医師から受けました。積極的な治療をやめ、ホスピスへの転院を勧める医師に、「とにかく治してください、何とかしてください」としか言えませんでした。治療を諦め、死を受け入れることなど、とてもできませんでした。
だから、村垣先生の言う「緩和ケアと並行して二次治療を提示すべき。患者さんに希望を持ってもらうべき」という話は、本当にその通りだと深く共感しました。
実際、村垣先生は、日々の診察や手術だけではなく、新しい治療法の研究にも情熱を注いでいます。
▼東京女子医大がスマート治療室で手術、医療情報をリアルタイムに確認
ハイパースコットはIoT(モノのインターネット)を活用して手術室の医療機器同士をつなぐため、スタッフの経験だけに頼らないより詳細な情報を共有できる。
また、下記論文は、村垣先生の研究室が開発した、抗がん剤の副作用(血球減少)を、より正確に予測するAI(人工知能)に関する論文です。がん治療に関する米国の最高峰の学術誌(JCO/Journal of clinical oncology – Clinical Cancer Informatics)に掲載されました。
▼Machine-Learning Approach for Modeling Myelosuppression Attributed to Nimustine Hydrochloride | JCO Clinical Cancer Informatics
こうした地道な研究が、少しずつ臨床の場で実を結んでいき、脳腫瘍患者さんの希望の光となっていくものと思います。
村垣先生の診察の後は、執刀医の丸山隆志先生の診察室にごあいさつに伺いました。薬剤師の生田先生にもお会いでき、三人でひとしきりお話ししました。丸山先生も大変興味深いお話をしてくれました。
人間には、質量保存の法則ならぬ、エネルギー保存の法則があるのではないかと思っています。若い頃に様々な苦難を乗り越えてきたエネルギーは、歳を重ねても、自分の中に保存されています。そのエネルギーが溜まってくると、自然と、エネルギーを使うチャンスが降りてくるのです。
これは、まさに同じ三人(丸山先生、生田先生、僕)で以前お話しした、「天使の前髪をつかむ」と言う話にも通じます。またちょうど先日、ヨーヨー世界チャンピオンのBLACKさんとの対話の中でもお話ししました。
▼人生の摂理とは:世界チャンピオンとがん患者に共通するもの|オーシャンブリッジ高山のブログ
丸山先生のお考えは、こういうことではないかと思います。
若い頃に努力を重ねてさまざまな困難を乗り越えることで、エネルギーが蓄えられ、キャパシティが広がる。そのエネルギーのキャパシティは歳をとっても残っている。そこにエネルギーが溜まってくると、天使の前髪が降りてくる、つまり、チャンスが降ってくる。そのチャンスをつかんで、溜まったエネルギーを使ってものにする。
また、丸山先生は、僕の急性骨髄性白血病の生存率の話をしたときに、こんなこともおっしゃっていました。
生存率なんてクソ食らえですよ。あれはあくまでも統計上の話です。でも患者さん一人一人にとっては生きるか死ぬかであり、統計や確率なんて関係ありません。
病気を乗り越えている患者さんはみな、生き抜くためのストーリーを持っています。そのストーリーを持っていれば、生存率なんて関係ありません。
この話は、僕が「「治るという前提でがんになった 情報戦でがんに克つ」でも書いた、人生のシナリオ、そして人生の目標にも通じるものだと思います。
やはり、毎日、患者さんと向き合い、生死に関わっているお医者さんは、人生に対しても深く洞察されているんだなと思いました。
すばらしい出会いと再会、そして深い気づきを得られたよい一日でした。
また三ヶ月後に先生たちとお会いするのが楽しみです。