手術で脳腫瘍を摘出(経緯11)

手術当日(2011年7月4日)は、4:30頃に目が覚めてしまいました。
前日の夜は、ベッドの上でFlickrにある娘の写真をiPadで見たりして過ごした後、消灯時間である21時過ぎには睡眠剤を飲んで就寝しました。この時期はあまり寝付きがよくなかったんですが、この夜は比較的よく眠れました。
そのためか、起床時間の6時よりも大分早い4:30頃には、廊下を歩く看護師さんの足音で目が覚めてしまいました。


トイレに行ったり、再びベッドに横になってメディテーション(瞑想)用の波の音を聞いたりしているうちに、検温の時間になって看護師さんが来ました。体温は36.6度、血圧は上が124で、両方とも問題なし。前日まで少し熱があったので心配していたのですが、手術前に無事に下がりました。
この日は手術の直前なので朝食は食べられません。検温の後は、顔を洗ったり、歯を磨いたりしました。
8時頃、奥さんが娘をベビーカーに乗せて来てくれました。前日に伊那から上京してきた母も来てくれました。
手術室には8:50に入る予定で、少し時間があったため、しばらく病棟のロビーで家族と過ごしました。僕はiPhoneで娘の写真を撮ったりしていました。この時に撮影した娘と奥さんのツーショット写真が、今の僕のiPhoneの待受画像になっています。
その後一旦病室に戻って手術着に着替え、またロビーで家族に合流しました。そして8:40頃に看護師さんから声がかかり、手術室へ向かいました。自分で歩いてエレベーターに乗り、看護師さんと家族と一緒に、下の手術室のあるフロアに。
エレベーターを降りて、またしばらく歩き、自動ドアのあるところで家族と別れました。奥さんに抱っこされた娘と、自動ドアを挟んで「バイバイ」とお別れしました。
途中で車椅子に乗り、名前を名乗ったり左腕につけている名前のバンドを見せたりして本人確認をし、手術内容を確認した後、車椅子を押してもらって手術室に入りました。
初めて入る手術室は、思ったより狭い印象でした。限られたスペースの中に、たくさんの機材が並んでいたせいで狭く感じたのかも知れません。そして部屋の奥にはひときわ大きな機械が。
「あ、これが例の術中MRIですね!」と看護師さんに言ったら、「そうですよ」との返答。
部屋の壁の上の方にはたくさんのWebカメラも設置されていました。後でネットで知るのですが、このカメラによる室外からの手術状況のリアルタイムなモニタリングも、女子医大の先進的な取り組みの一つです。
そして手術台に寝ました。手術台も思ったより狭く、横幅は本当に人間の幅の分しかありません。そして麻酔をかけられると、あっという間に意識がなくなってしまいました。
ーーー
意識が戻ったときには、まだ手術室にいました。もちろん手術は終わっています。周りでは先生や看護師さんの声が聞こえていました。先生が「shivering(シバリング)してるな」と言っていたのが、麻酔から覚めて初めて聞いた言葉だったと思います。その時、僕の身体はなぜかガクガク震えていて、そのことを言った言葉です。
そして「どこか痛いところはないですか?」と先生から聞かれました。実はその時、全然脳とは関係のない右足の付け根が痛かったので、それをそのまま先生に伝えました。単に、狭い手術台に長時間固定されて足が動かせなかったため、股関節が痛くなったものです(後でICUに移ってから股関節をごきごき動かしたら治りました)。ただ先生たちは、尿を貯めるバルーンの管(尿を排出するために尿道から膀胱に入れてある管)のせいだと思ったようでした。
そして主治医のTM先生が若い先生に「脳腫瘍の手術の後は、XXXの数値をちゃんとモニターしておくように」といった指導をしている声も聞こえました。「臨床と同時に教育の場でもあるんだなあ」と妙に感心したのを覚えています。
意識が戻って時間が経つにつれ、徐々に頭の痛みが実感されてきました。この時、リラクセーションやメディテーションのために実践していた呼吸法が役に立ちました。入院後の眠れない夜に、CDを聞きながら試していたものです。ゆっくり腹式呼吸をしながら、頭から足まで順に身体のの力を抜いていき、痛みが引いていくイメージを持ちます。すると、実際に楽になる気がするのです。
そんなことをしているうちに、手術室を出てICU(集中治療室)に運ばれました。ストレッチャー(車輪の付いたベッド)でICUまで運ばれて、ベッドに移されました。周囲を囲む数人の看護師さんが、「いっせーのーせっ!」で一気に僕を持ち上げて、ストレッチャーからベッドにどしんと移します。正直、「こちらは手術直後なのになんて乱暴な・・・」と思いました(笑)。
またこの時に驚いたのですが、患者は、頭の手術の後でも普通に仰向けで、枕をして寝るのです。僕の脳腫瘍は右の後頭葉にあったため、右後頭部を大きく開頭しています。それなのに、普通にその傷口を下にして、つまり傷口を枕につけて寝るのです。ICUの枕は、普通の枕とはちょっと形が違いましたが、それでもべったりと傷口に当たります。さすがに傷口が痛く、頭の位置を常に微妙に変えて、痛くないところを探しながら寝ていました。
また表面の傷口だけではなく、頭の中も痛くなっていました。いわゆる頭痛のような痛みです。看護師さんが来て、「あまり痛くないのがゼロ、痛くて痛くてとても我慢ができないのが10だとすると、今の痛みはどれくらいですか?」と聞いてきました。確かその時は7か8くらいと答えたような気がします。それに応じて痛み止めの量などを調整してくれるようでした。この質問は、術後しばらくの間、何度か聞かれることになります。
ICUに落ち着いたら、今度は視野のことが気になりました。手術の後遺症で左の方が見えなくなるかも、と事前に先生から言われていたためです。
看護師さんにメガネを掛けてもらって、周囲を見回してみたところ、特に見えないところはありません。左のほうにあるものを見ようとしても、問題なく見えます。「やった!視野に後遺症は残らなかったんだ!」と喜びました。でも、残念ながらそれは誤解でした。
その後主治医のTM先生が来てくれて、手術の結果を説明してくれました。
先生は、「高山さん、腫瘍は95%取れましたからね。腫瘍の悪性度は、手術中のインスタントな(簡易的な)病理検査では、グレード3でした。見た範囲では、グレード4の細胞は見つかりませんでしたよ」と説明してくれました。
僕は「ああ、よかった。無事に手術は成功したんだ」と思いました。そして「グレードは3だったんだ」と安心しました。
手術に際しての最大の不安要因は、きちんと腫瘍が取れるかということと、腫瘍の悪性度(グレード)がどうかということ(術前には3か4と言われていた)の2つでした。その2つが、見事にクリアされました。
説明してくれている先生の充実した表情と力強い口調からも、手術が会心の出来だったことが伝わってきて、それが本当に僕の力になりました。
グレードについては、最終的には2〜3週間後の正式な病理検査の結果を待つ必要があります。それでも、これまで「画像診断を見ると、グレードは3か4」と言われていた状況から、「実際に組織を取って簡易的ながら検査してみた結果、グレード3」というのでは、全然違います。本当に安堵しました。
その後、TM先生は席を外され、しばらくして若いS先生たちが来ました。視野の確認です。S先生は僕の目の前に片手を出して止め「この手を見ていてください」と言いながら、逆の手を僕の視野の上下左右に動かして、「これ見えますか?」「これはどうですか?」と確認し始めました。視点を正面に固定しながら、視野の上下左右のどこかに見えない領域がないかを簡易的に検査したのです。
この検査で初めて気がついたのですが、やはり視野の左下四分の一が見えていませんでした。視野を上下左右に四分割した時の、左下の領域が見えません。
先ほど視野に問題がないと思ったのは、左にあるものを見るために、そちらに視点を動かして見ていたためです。「左のほうにあるものが見えるか」ではなく、「正面を見たときに、視野の左下の方にあるものが見えるか」が問題だったのです。先生たちは「やはり左下か」というような話をしていました。
でも、僕としては、手術の方針を決めるときに先生に伝えたように、多少の後遺症が残っても、長く生きられるほうを選びたいと決めていたので、この視野の後遺症については特にショックとかいうことはありませんでした。
そんなことよりも、手術が成功し、腫瘍が95%取れ、グレードが4ではなく3だったこと(最終結果ではないものの)の喜びの方が、断然大きかったです(なお、この腫瘍摘出率の95%という数値は、術後しばらく経った後の先生からの説明では、術後の検査を反映したためか98%と説明されます)。
先生と話しているうちに、ICUへの入室許可が出た奥さんが通されてきました。すでに先生から手術の結果は聞いていたようで、僕の顔を見るなり泣き出しました。「よかった、本当によかった」と。
その時、奥さんはベッドの左側に立っていました。僕の見えないエリアです。だから僕は奥さんに開口一番「左に立たれると見えないよ」と言ったようです(ここはあまりはっきり覚えていないのですが)。
僕は「○○(娘の名前)はどうしてる?」と聞きました。娘は、母と一緒に、病院の近くに借りていたマンションで待っているとのことでした(ちなみにこのマンションも、幼なじみのT君が手配してくれたものです)。「いい子で待ってるってお母さんが言ってたよ」と奥さんから言われて、安心しました。
奥さんが涙を流しながら「本当によくがんばったね」と言うので、僕は「いや、がんばったも何も、僕は麻酔かけられて寝てただけだから(笑)」と言いました。実際そのとおりでしたし、僕は手術の前から、「自分ががんばらなければならないのは、手術中ではなく、手術後だろう」と思っていました。同じ病室の隣のベッドのIさんが術後に痛みや吐き気で苦しんでいる様子を見て、特にそう思っていました。
でも、しばらく後に気づいたのですが、手術の後、奥歯を非常に強く噛み締めていた感覚が口の中と顎の関節に残っていました。恐らく、手術中に何かを我慢するために、無意識の中で、ずっと奥歯を噛み締めていたのではないかと思います。麻酔下で意識がない状態でも、自分の身体はがんばっていたのかなあと今では思っています。
この術後のICUでの再会を通じて、僕の奥さんは、思ったよりも僕がしっかりしていて、会話もいつもと全く変わらずできたのに、驚いたようです。先生から「患者さんによっては術後しばらく意識がはっきりしないこともある」と聞いていたためのようです。予想以上にしっかりしている僕を見て、「よかったよかった」と涙を流していました。
この時奥さんに時間を聞いたら、19:40でした。手術室に入ったのが8:50でしたので、11時間近く経っていました。
この夜、僕はこのままICUで過ごします。ある意味、入院中で最も激しい一夜となりました。

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「手術で脳腫瘍を摘出(経緯11)」への6件のフィードバック

  1. 高山様のブログを初めて読ませて頂きました。親友のお子さんが来週脳腫瘍摘出手術を受ける為 携帯電話で【脳腫瘍手術時間】と検索してみたら高山様のブログが最初に出て来たのです。最初から最後まで読み終わり 明後日から某大学病院に入院し金曜日には手術を受けるお子さんが5年生存率が他の病院より3倍もある東京女子医大で治療を受けるのは不可能なのか?と言う気持ちが沸き上がり居ても立ってもいられなくなり誰に聞いて良いのかも分からず…こうして突然高山様にメールをしています。お子さんは小脳に悪性腫瘍が出来ているとの事で主治医からは、かなり厳しい説明があったそうです。明後日から入院し、 もう来週に手術が決まっている今になって 病院を変えるなんて事は不可能な事なのでしょうか?親友家族の気持ちを掻き乱すだけなのか どうしたものなのか?もっと早く 高山様のブログと出会っていれば…と悔やまれます。親友に この東京女子医大の話をするべきか?今更話したら これから他の病院で手術に挑む家族には…酷なのか…時間が あまりにもありません。私の取るべき行動が分かりません。

  2. 高山様おはようございます。昨夜 メールをしたNです。 自分のメルアドを記入すると高山様が返信下さるように書かれていましたが、私の携帯電話はパソコンからのメールは着信出来ないような設定になっている事を今朝思い出しました。設定の変え方が分かりません\xF9ム昨夜のメールは 高山様のブログを読み 取り急ぎ自分の気持ちを質問形式で送信してしまいました。返信受け取れないのに…。申し訳ありませんでした。

  3. N様、
    返事が遅れて申し訳ありません。コメント通知メールがなぜか迷惑メールに分類されており、先ほど気付きました。
    ご相談の内容は、非常に難しい問題で、非常に判断が難しいです。ただ私なりに考えたことを書いてみます。
    今からそちらの大学の先生に他病院への転院の相談をするのは、治療の上で非常に重要な信頼関係の悪化を含めた、様々なリスクがあると思われます。他の病院を受診することを嫌がる医師は少なくないようです。私の周りでも、「女子医大にセカンドオピニオンを聞きに行きたい」と言っただけでかなり嫌な顔をされ、「もううちでは治療できませんよ」と言われたというような話も少なからず耳にします。
    よい情報としては、ちょっと調べてみたところ、そちらの大学でも、女子医大と同様に術中MRIを導入していることがあります。
    ▼神経膠腫(グリオーマ)治療法 :
    http://neurosurgery.med.u-tokai.ac.jp/edemiru/glioma/chiryou.html
    ▼ドクターインタビュー:
    http://neurosurgery.med.u-tokai.ac.jp/interview/tsugu.html
    ▼第12回日本術中画像情報学会 ─「術中MRIの有用性,新たな展開」をテーマにシンポジウムを開催- 株式会社日立メディコ – inNavi Suite :
    http://www.innervision.co.jp/suite/hitachi/supplement/1209/report/index.html
    実際のそちらの大学における脳腫瘍/グリオーマの治療成績のデータは分からないのですが、術中MRIを活用したグリオーマ手術であれば、他の一般的な病院よりも治療成績が良好である可能性が高いと思われます。
    以上を踏まえ、私がN様だったらどうするかを考えてみました。
    ご友人やお子さん、またN様が後で「あの時知っていれば・・・」「あの時伝えていれば・・・」と後悔することは望ましくありません。
    ですので、少なくともご友人には、女子医大におけるグリオーマ手術(術中MRIを活用)とその治療成績のこと、そしてそちらの大学でも術中MRIが活用されていることを伝えると思います。
    そして、それらの情報に基いて、改めて手術の内容や方針について、主治医に説明の時間をとってもらうようにします。あくまで、そちらの大学で手術を受けるという前提で、主治医に手術の説明を再度お願いするのです。術中MRIを使った手術になるのか、治療成績(腫瘍摘出率や5年生存率)はどのくらい期待できるのか(女子医大と比較して)、などについて再度主治医から説明してもらいます。
    それで納得ができれば、そのままそちらの大学で安心して手術を受けられるのではと思います。もし納得できなければ、転院の可能性も考慮すべきかも知れません。ただ、これは病状の緊急性にもよりますので、一概には申し上げられません。
    私が今申し上げられるのはこのくらいです。明快なアドバイスとならずに恐縮です。もし多少でも参考になるのであれば幸いです。また何かご不明な点があればコメントいただければと思います。
    ご友人のお子さんが最善の治療を受けられることをお祈りしています。

  4. 高山様 返信ありがとうございます。そして色々調べて下り心より感謝します。高山様のブログ今後も読ませて頂きます。順調に完治される事を祈っています。

  5. N様、多少なりともご参考になったのであれば幸いです。
    また何かありましたらご連絡いただければ幸いです。
    重ね重ね、ご友人のお子さんが最善の治療を受けられることをお祈りしています。

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