前回の闘病記からの続きです。
◼︎2013年6月19日(水)。入院38日目。抗がん剤治療開始から30日目。
この日は前日から始まった抗がん剤治療「MA 療法」(MTX+Ara-C療法)の2日目です。
前日のメソトレキセート(MTX)に続き、キロサイド(Ara-C)という抗がん剤を点滴します。キロサイドの副作用は前回記事の通り。
点滴は夜からです。
朝は恒例の採血。しかし脳腫瘍の治療の段階から採血を重ねた結果、僕は右手も左手も、血管が硬くなり、注射の針がなかなか刺さりません。この日も最初に来た看護師さんが2回失敗。その後代役で来た看護師のIさんが採血しようとしていたタイミングで、ちょうど担当医のMY先生が登場。Iさんは「先生がいると緊張する!」と言いながら、先生のアドバイスに従って肘の外側に注射。見事に針は血管を捉えたものの、徐々に注射が引けなく(血液が出なく)なりました。
普通はここで諦めて、別の場所に注射することになるんですが、状況を見ていたMY先生から一言、「血管、押さえちゃってるよ」とのアドバイスが。先生が手を貸し、それでまた血液が引けるようになり、無事終了。「さすがMY先生!」とIさんも僕も感心してしまいました。MY先生自身は「看護師さんの方が毎日やっているからうまいですよ」と謙遜していましたが、でもさすが経験を積んだ先生は違う、と感心しました。
日中は、何となく身体がだるく、眠くて、寝ていました。前日点滴した抗がん剤、メソトレキセートの副作用か、それとも前日に夜中まで本を読んでいてあまり寝てないせいか分かりませんが、一日中、横になりがちでした。それでもお昼に出てきたハヤシライスは完食できました。
ただ、前回の抗がん剤治療1コース目(Hyper-CVAD療法)から続いている便秘傾向は続いており、下剤等の飲み方の工夫は続いていました。
夜、21時頃になって、点滴が始まりました。まずは副作用を抑えるためのステロイド剤であるソル・メドロールを30分かけて落とします。続いて吐き気止めのグラニセトロンをやはり30分かけて落としました。
その後続いて抗がん剤のキロサイドの点滴です。こちらは2時間かけて落としました。点滴が終わる頃には日が変わっていました。
◼︎2013年6月20日(木)。入院39日目。抗がん剤治療開始から31日目。
この日の早朝は、滅多につけないテレビにテレビカードを差し込み、サッカーのコンフェデレーションズカップの日本代表対イタリア代表の試合を見ました。
その後は、前日に続いてキロサイドの点滴です。
朝9時からソル・メドロールを30分、続いてグラニセトロンを30分、そして10時からキロサイドを2時間です。昼過ぎに終わりました。
夜も21時から同じようにソル・メドロール、グラニセトロン、キロサイドを深夜まで。
この日もやはり何となく倦怠感はあり、朝10時のキロサイドの点滴の時から眠くて、一日中寝て過ごしがちでした。午後には家内がお見舞いに来てくれたのですが、来てくれている間にも眠ってしまいました。
また、食欲が落ちてきていて、昼食は8割ほど、夕食は半分ほどしか食べられませんでした。これも副作用の影響だと思います。
◼︎2013年6月21日(金)。入院40日目。抗がん剤治療開始から32日目。
この日でMA療法は終わりです。
前日と同じように朝9時からソル・メドロール、続いてグラニセトロン、そして10時からキロサイドを点滴しました。
ただ、朝から38.0度の発熱があり、昼には38.4度に上がっていました。
前日から、何となくだるさや眠さ、寒気を感じていたんですが、それはこの発熱が原因だったようです。看護師さんに聞くと、キロサイドの副作用で発熱もあり、また骨痛というのもあるとのこと。
そう言えば、それまでの抗がん剤治療により仙骨部の腫瘍が縮小したことで、神経の圧迫が弱まり、左足の激痛は治まってきていたのですが、この前日から、左足の内腿や足先左側に痺れや痛みを以前より強く感じるようになっていました。これも副作用の関係かもしれません。
MY先生に話したところ、熱や痛みについては、感染によるものかを見るために、念のためレントゲンや血液の培養検査をするとのこと。また、もし痛みや痺れが強い場合は、痛み止めの医療用麻薬、オキノームを飲んでくださいとのことでした。
またこの日、オーシャンブリッジのアメリカのパートナー企業、IGCの社長であり友人のGaryから、「たまたま今日、CNNで見たんだけど、抗がん剤に代わる白血病の新しい薬が開発されたみたいだぞ」というメールが届いていました。
そのCNNのニュースはこちら。
▼New drug may be best treatment for leukemia yet – CNN.com(新薬がこれまでで最も優れた白血病の治療法となるか)(2013/6/21)
It’s called ibrutinib, and it’s a potential breakthrough in treating chronic lymphocytic leukemia (CLL) that could leave patients with fewer side effects than chemotherapy.
(その新薬はイブルチニブと呼ばれる薬で、慢性リンパ性白血病(CLL)の革新的な治療法となる可能性があり、しかも従来の化学療法に比べ、患者にとって副作用も少ないという。)
早速このニュースをMY先生に見せたところ、その場でざっと目を通してくださって、こう言いました。
ibrutinibという薬の名前からすると、免疫系に作用する薬ですね。日本でも新しい薬はいろいろと治験されています。でも認可まで時間がかかっているのが現状です。この薬がもし相当の効果があるのなら、厚生労働省も認可を早めるかもしれませんね。
いま調べてみたら、その後、この薬がアメリカでは承認されたとのニュースがありました。
▼米国でマントル細胞リンパ腫を対象にibrutinibが承認獲得:日経メディカル(2013/11/15)
▼FDAが慢性リンパ性白血病(CLL)の治療にibrutinib[イブルチニブ]を承認/FDAニュース | 海外癌医療情報リファレンス(2014/2/12)
このように、CNNで取り上げられた5ヶ月後には、FDA(米当局)からまずマントル細胞リンパ腫(MCL)を対象に承認され、その3ヶ月後には慢性リンパ性白血病(CLL)に適応が拡大されました。残念ながら僕の急性リンパ性白血病(ALL)は適応外ですが。
先日このブログに書いた、細胞医薬「CTL019」がアメリカでスピード承認されそうだという件と同様に、このibrutinibもFDAの「画期的治療薬指定」により通常より早く承認されたようです。
もちろん日本人における副作用などの危険性は十分に臨床試験で検証される必要がありますが、日本でもこうした新薬がスピーディに患者の元に届けられるようになるといいなと思います。
さて、MY先生はこのような話にも真摯に付き合ってくださいました。この頃から、自分でも積極的に海外の最新の論文を探すようになっていきました。
この日は結局、夜まで熱が38度以上ありました。夜寝る前には看護師さんにお願いして解熱剤のカロナールを出してもらって飲みました。長野から所用で上京してくる姉がお見舞いに来る予定だったのですが、熱のために延期となりました。
それでも、これでHyper-CVAD/MA療法の2コース目、MA療法の点滴が全て終わりました。メソトレキセートの点滴を24時間かけて行い、キロサイドの点滴を1回2時間で4回に分けて3日間で行いました。
この段階では発熱や倦怠感、食欲減退以外には強い副作用はなく、何とか無事に終わった、という印象でした。