「今度あそこに行こうね」と言える当たり前の幸せ

今、生きていて、しみじみとした幸せを感じるとともに、辛かった頃を思い出す瞬間があります。
それは、家内や娘との会話の中で、

今度またあのお店にご飯食べに行こうね

今度あそこに遊びに行こうね

という話をする瞬間です。
3年前の2011年6月に脳腫瘍が見つかり、東京女子医科大学病院の村垣教授から「グリオーマのグレード3か4ですね」と診断された時から、手術が終わるまでの間は、そうした「今度」に関することが全く考えられませんでした。
グリオーマの一般的な5年生存率はグレード3が25%、グレード4が7%です。しかし女子医大は治療成績が圧倒的に優れており、グレード3だと5年生存率が78%に上がります。それでもグレード4の場合は13%に留まります。
グレード3か4と診断され、こうしたデータを見た時に、

自分はあと数年で死ぬのかもしれない

と思いました。その後、街を歩いていて、昔、家内と2人で来た和食屋さんの前を通り、

今度は娘も連れて三人でまたこのお店に来たいな

と一瞬思うのですが、すぐにその考えは

また来る機会は、もうないかもしれない

という考えで打ち消されました。
また、グリオーマとの診断が出た後、入院するまでの間に、家族で岐阜の病院にPET検査に行きました。家族三人で新幹線に乗り、ホテルに一泊しました。当時1歳の娘にとっては、初めての新幹線、初めての長距離旅行でした。その検査旅行の間中、

これが最後の家族旅行になるかもしれない

と思っていました。
その後、入院して手術を受け、手術直後のICUで、執刀医の丸山先生から

術中の簡易的な病理検査ではグレード3でした。腫瘍はほぼ取りきれましたよ

と言われ、その病理検査の正式な診断結果が2週間後に出て、グレード3で確定してから、やっと、

自分はこれから先も生きていけるんだ

と考えることができるようになりました。
その2年後、昨年の4月に腰に腫瘍が見つかり、国立がん研究センター中央病院での生検の結果、B細胞性リンパ芽球性リンパ腫(=急性リンパ性白血病)と診断され、5年生存率は40%だと聞いた時に、再び、

自分はあと数年で死ぬのかもしれない

と思いました。2年前と同じように、「家族でまたここに来たいな」と先のことを考えることができなくなりました。僕の中から再び「今度」がなくなりました。
その後、虎の門病院に入院し、連日のように海外の最新の論文を読み、その内容を担当医の先生にぶつけて治療方針を議論し、治療方針に心の底から納得し、先生たちとも合意してから、ようやく

自分はこの治療方針で、何としても生き残る40%に入る

という確信を持てるようになりました。それから再び将来のことを前向きに考えられるようになりました。僕の中で「今度」が復活しました。入院して2ヶ月以上が経った頃でした(その後入院生活は5ヶ月続きます)。
最近書いた入院中の闘病記にある、娘との下記のようなやり取りにも、それが表れています。
▼帯状疱疹の痛みと高熱/病室でiPadで映画:白血病・悪性リンパ腫闘病記(63)

娘は保育園で撮ってもらった写真をたくさん見せてくれました。そして、以前、幼なじみのT君の家族とみんなでみなとみらいに行ったときの話をして、

「またパパとキドキド(ボーネルンドが運営する子どもの遊び場)と動物園(野毛山動物園)に行きたいなー!」

と言っていました。僕も

「パパも行きたいよ。退院したら絶対行こうね」

と答えました。

▼体重が増えることは命の長さが延びること/病室の入り口に「トイレなう」/コーラと涙:白血病・悪性リンパ腫闘病記(64)

この日の夜、娘とFaceTime(テレビ電話)で話しました。娘は、前日に話したキドキドや動物園だけではなく、パパと行きたいところが他にもたくさんあるとのこと。ミッキーランド(当時の娘の表現によるディズニーランドのこと 笑)やお砂場など。

「絶対に病気を治して、家族三人で行くぞ」

と改めて心に誓いました。

そして今の日常生活の中でも、こうした会話はたくさんあります。昨日ブログに書いたリモコンロボット「Ollie」の記事では下記のように書きました。
▼Ollie(オリー)ファーストレビュー:スマホでリモコン操作できるタイヤ型ロボット(Sphero社製)

(Ollieは)半径30メートルまで操作可能ですので、今度、近所の広い公園に持って行って遊んでみよう、と娘と話しています。

それ以外にも、娘と

またパパの会社のお友だちとみんなでお肉食べに行きたい!

よし分かった。また今度行こうね

という会話をしたり、家族三人で

また今度あそこのお寿司屋さん行こうね

また今度ピザ食べようね

といった会話をするたびに、脳腫瘍と診断された後の、また白血病と診断された後の、「今度」がなくなっていた頃の辛い記憶が蘇ります。それと同時に、将来のことを家族と話すことができることに、深い深い幸せを、心の底からしみじみと感じます。
病気というものは、当たり前のことを当たり前でなくしてしまいます。でもそれにより、当たり前のことがどれだけ貴重でありがたく、そして幸せなことかを、改めて認識させてくれます。
今こうして生きていられることに感謝しつつ、当たり前の幸せを大切に噛み締めて、毎日を生きていきたいと思います。

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