先日、Facebookで下記の記事が話題になっていました。
▼膠芽腫も消えた! ポリオウイルスでがんを治す新療法が登場 : ギズモード・ジャパン
これまでなかなか有効な治療法がなく、五年生存率も数パーセントという、非常に悪性度の高い脳腫瘍である膠芽腫(グリオーマ グレード4)を、なんとポリオウイルス(ワクチンではなく)で治す、という新治療法が、アメリカで開発されたとのこと。臨床試験では腫瘍が消えてしまう患者さんも出ているようです。
悪性腫瘍をポリオウイルスに感染させて殺す——そんな毒をもって毒を制すなデューク大学の新療法を米CBS報道番組「60ミニッツ」が特集しました。臨床実験のフェーズ1からいきなりがんが治る人たちが現れ、「奇跡としか言いようがない」と衝撃を呼んでいます。
同じグリオーマ患者として(僕はグレード3でしたが)、確かにこれは奇跡的なことだと思います。
最初に登場するのは2012年に悪性の脳腫瘍の「膠芽腫(glioblastoma)」と診断されたナンシー・ジャスティスさん(58)です。2年半に渡って放射線療法や化学療法で抑えてきたのですが、腫瘍が再発しました。
この腫瘍は2週間で倍に成長します。再発後は「余命長くて7ヶ月」と診断されましたが、その半分になる恐れもあります。治療法はもう何も残されていなかったため、デューク大学の臨床試験の被験者に挑むことにしました。
昨年10月、小さじ半分のポリオウイルスを脳腫瘍に注入。注入しながらこう語っています。「1日1日を生きる、それだけ。これでほかの人たちに希望が与えられるなら怖くなんかない」、「大学生の息子2人の卒業式も、結婚も、孫の顔も見たいんです」
このお気持ちは大変よく分かります。
被験者はナンシーさんが17人目です。小さじ半分のポリオウイルスの浸透には6時間半もかかりました。が、治療はそれでおしまいです。手術も放射線もなし。小さじ半分を1回注入する、それだけで終わりなんです。あとは数ヶ月後にもう1回MRI検査をやって、膠芽腫とポリオ、どっちが強いのかをチェックします。
このように、治療自体は一回で済むようです。
最初に被験者になったのは、20歳で余命数ヶ月を宣告されたステファニー・リプスコーム(Stephanie Lipscomb)さん(写真上)です。やはりナンシーさんと同じ膠芽腫で、頭痛で病院に行った時にはもうテニスボールほどまで成長していました。大量の化学療法で腫瘍の98%は摘出できたのですが、2012年に再発。再発した膠芽腫にはもう治療法はありません。そこで「人間に試すのはあなたが最初だ」と説明を受けた上で納得ずくで臨床にのぞみました。
ステファニーさん「正直、もう失うものは何もなかったんです」
5月に注入して2ヶ月後。残念ながら腫瘍はむしろ大きくなってました。サイコロは悪い方に転がってしまった…。「これはダメだ」と判断した医師は普通の療法に戻して手術もやろうと進言します。が、ステファニーさんは「もう少し様子が見たい」と止めました。
注入から5ヶ月後。恐る恐る見てみたら腫瘍はなんと成長が止まっているではないですか! 注入後すぐ大きくなって見えたのは単に腫瘍が炎症を起こしていたからだとわかりました。身体の免疫系が覚醒し、がんと戦っていたのです。
なぜポリオウイルスで腫瘍を叩くことができるのでしょうか。
グローマイヤー医師「がん細胞というやつは自分の周りにシールドを張り巡らして、免疫系からは見えなくなってしまうんです。そこをリバースする、それがこの療法です。腫瘍を感染させることでこのシールドを剥ぎとって、免疫系にこっちだよ、と教えて導いてやるんですよ」
記者「なるほど。ポリオにわざと感染させて免疫系にアラームを発動するわけですな」
このように、がん細胞をポリオに感染させることで、もともと身体に備わった免疫力を発動させて、がん細胞をやっつけるとのこと。すごいアイディアです。
その治療の結果です。
こうしてステファニーさんの腫瘍は21ヶ月連続で縮小を続け、しまいには…
…消えてしまいました。これは注入3年後のMRI。腫瘍はすっかり消えてなくなってます。残っているのは初期に行った手術痕だけです。
なんと、膠芽腫の腫瘍は消えてしまったとのこと。
ただ、まだ臨床試験段階であるが故に、うまくいかないケースもあったようです。
フェーズ1の臨床では注入量を少しずつ上げてゆき、適量を割り出さなければなりません。3人目で悲劇は生まれました。初めての失敗。
3倍に上げた第14号のドンナ・クレッグ(Donna Clegg)さん(60)の場合は、炎症が激しくなり過ぎて脳が圧迫され体が一部麻痺し、途中で注入を中断せざるを得ない結果に。苦しみながら3週間後に亡くなりました。
この知見を糧に、冒頭のナンシーさんでは注入量を85%カットしました。
注入後4〜6ヶ月は炎症期。免疫系が目覚めて、腫瘍を殺し始める時期です。確かにナンシーさんもドンナさんのようにろれつが回らなくなり、右半身が弱まる症状が出ました。注入3ヶ月後に急患でMRI検査に戻ったところ、注入前の2倍に膨れ上がっていました。腫れを抑えるためAvastinというガン薬を服用したところ、すぐ効いて症状は落ち着きました。
ポリオ注入から4ヶ月半。通常なら2、3週間で倍に成長するはずの膠芽腫は、腫れも成長も悪化もないままです。MRIで調べてみると、腫瘍の真ん中には、ぽっかりと穴が…
ポリオで免疫系が覚醒し、内側からがんを突き崩していたのです。
これまでの臨床試験の結果は以下の通り。
これまでの治験でポリオウイルス療法を試したがん患者は合計22人。うち死亡された方は11人で、ほとんどは注入量が多い試験でのことでした。それでも余命宣告よりは長く生きたというのがせめてもの救い…。
残る11人は回復を続けており、うち4人は「寛解」の状態で半年以上クリアしています。平均半年寿命が伸びた計算。ステファニーさんやアンダーセン博士のように33、34ヶ月もピンピンしてるなんて従来の療法では考えられないことだとセンターの所長は言ってますよ。
治験を受けた方の半分が亡くなっているのは多いようにも見えますが、そもそも膠芽腫は余命が1年〜1年半とも言われる病気です。上記引用のように、亡くなられた方も、余命宣告よりは長く生きられたとのこと。
詳しくは元の記事をご覧ください。MRI等の画像を含めて詳しく解説されています。
▼膠芽腫も消えた! ポリオウイルスでがんを治す新療法が登場 : ギズモード・ジャパン
この治療の臨床試験が進み、最適なウイルス注入量が割り出され、日本でも臨床で使える日が来て、膠芽腫も治せる日が来ることを、心から願っています。
ご紹介ありがとうございます。朗報ですね!
気持ちが明るくなります。
原理も免疫細胞療法と似ていて、免疫系でがんを撲滅する。と言うのが良いですね。
onebit007さん、コメントありがとうございます。
こうしたニュースを目にすると、本当に医療は日進月歩で、常に新しい薬や治療法が開発されているんだな、と実感でき、勇気づけられますよね!
日本でも次のような臨床試験が行われているようです。
膠芽腫患者を対象とした増殖型遺伝子組換え単純ヘルペスウイルス1型の第2相臨床試験
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/glioma/research/form3/index.html
匿名さん、
情報ありがとうございます。
日本でもいろいろな臨床試験が進められているようですね。
本当に医療は日進月歩で心強いです。