先週の金曜日、11月2日に、虎の門病院に急性骨髄性白血病の外来診察に行ってきました。前回の診察からは2週間ぶりです。
お陰さまでこの2週間は何事もなく、つまり高熱を出して緊急入院することもなく、平穏に暮らしていました。
リハビリを兼ねて行きつけの喫茶店カフェカルディ(注:カルディコーヒーファームではありません。詳しくはリンク先参照)に行って本を読んだり、娘が学校から帰ってきたら一緒に遊んだり、勉強したり、家内の作ってくれる夕飯を家族で食べたり。
この間の土曜日には、家族で電車に乗って武蔵小杉まで買い物に行くこともできました。もちろんマスク着用で。久しぶりに家族三人で楽しく買い物ができました。
段々と体力、脚力がついてきたことで、電車に乗るなど、行動範囲も広がっています。その分運動量も増え、体重も少しずつ、少しずつですが増えてきました(7/17の退院時が45.75キロ→今は49.8キロ)
という近況を踏まえて、虎の門病院に外来診察に行ってきました。体力が回復してきたとは言え、まだ歩いていてふらつくこともあるので、念のため行きはタクシーで行きました。家内が付き添ってくれました。
この日の外来は湯淺先生。予約は午後だったため、お昼過ぎに病院に着き、採血してから、診察までの時間はいつものようにスタバで奥さんとゆっくりしていました。
ほぼ一時間後、採血結果が出る頃に湯淺先生の診察室前に戻ったのですが、まだまだ待っている患者さんは多く、そこでかなり待つことになりました。ようやく順番が来て、診察室へ。
僕からざっと近況を報告した上で、湯淺先生から血液検査の結果の説明。
肝臓の数値(AST:62、ALT:58、LD:203)は、若干上がっているものも、下がっているものもありますが、この範囲なら今は問題ないでしょう。腎臓の数値(クレアチニン:0.93)も問題ありません。
血球の方も、白血球が3.6、赤血球が3.37、ヘモグロビンが10.4、血小板が78と、今の時点ではこんなものでしょう。
その後、薬の相談。僕としては、免疫抑制のために飲んでいるステロイド剤(プレドニゾロン)を早くやめたい(やめると食事制限などが緩和される)という思いがあり、その点を含めて相談しました。
さい帯血の免疫反応にブレーキをかけていたステロイド剤をやめると、免疫反応が強くなって、肝臓のGVHDが強くなり、肝機能障害で黄疸が出たり、肝臓の数値が悪化する可能性があります。
またステロイドには体を元気にしたり食欲を増進したりする副作用があるため、今は比較的元気な僕の体調が、ステロイドをやめることで、またネガティブな方向に傾いてしまう可能性があります。
でも、ステロイド剤でさい帯血の免疫反応にブレーキをかけたままだと、まだ体の中に残っている可能性のある白血病のがん細胞をやっつけるというGVL効果が薄れてしまい、白血病を治すという観点ではマイナスです。
これらの各種要因を見ながら、免疫抑制剤やステロイド剤の投与の仕方を判断するのが、移植医の経験が求められる場面の一つだと思います。結局この日、湯淺先生は、ステロイドの量と回数を減らすことにしてくれました。これまでは、月、水、金、日の週4日、1錠(5mg)飲んでいたのですが、今回から、月、水、金の週3日、半錠(2.5mg)飲むことになりました。これで僕の体調がどうなるか、肝臓の数値がどう変化するか、他に新たなGVHDが出ていないかなどを見て、次回の診察で、もうやめるか、もう少し続けるかを判断することになるかと思います。
しかしさすがに慎重な湯淺先生。薬の調整も微妙です。ちなみに錠剤を「半錠」にするのは、薬局でやってくれます。普通の押し出すパッケージから錠剤を出して、二つに割り、それを一つずつ袋に入れて用意してくれます。
薬の話が終わり、次回の予約を取ってから、最後に質問しました。以前も一度質問した、また別途山本先生にも質問した、僕の生存率に関する質問です。一部理解できていないロジックがあったため、改めてお聞きしました。
湯淺先生は紙にグラフを描きながら丁寧に教えてくれました。
高山さんの急性骨髄性白血病は、治療関連の二次がんであること、そして複雑核型(染色体異常)という予後不良因子を持っています。この場合、一般的には長期生存率は3割と言われています。
でも高山さんは今、さい帯血移植から7ヶ月が経とうとしています。今日も元気に診察に来ています。でも移植治療では、移植から数ヶ月のうちに、2〜3割の方が、移植したことが原因で亡くなってしまいます(治療関連死)。
さらに、移植直後、数カ月のうちに、重篤な合併症にかかって亡くなってしまう方も2〜3割いらっしゃいます。
つまり高山さんが今いる移植後7ヶ月には、仮に最初に患者さんが100人いたとしても、半分の50人になってしまうのです。高山さんはその50人に入ったということです。
ではその50人はその後どうなるかというと、20人は再発してしまいますが、30人は再発せず長期生存します。高山さんがどちらに入るのかは今は分かりません。でも、今、現に体は元気ですし、GVHDも皮膚や消化管や肝臓などにしっかり出ていてGVLも期待できますので、長期生存する30人に入る可能性は十分にあります。50人中30人ですから6割ですが、高山さんの様子からは6〜7割は大丈夫と言っていいのではないでしょうか。
以上が、以前、湯淺先生から聞いた「高山さんの長期生存率は6〜7割」の医学的背景です。エビデンスに基いて説明していただいたので、心から納得できました。
「長期生存率6〜7割」というのは、高いと思うか、低いと思うか、人によって大きく異なるのではと想像します。
でも最初に生存率3割と言われ、常に死を意識しながら苦しい移植治療を乗り越えて来た今、そのお陰もあって長く生きていられる可能性が6〜7割に高まったことには、本当になんとも言えないうれしい気持ちがします。あれだけ苦しい思いをしたんだから長く生きたい、という思いがある反面、予後不良因子の存在などの不安要素から、そう簡単にはこの病気は治らないだろう、ということも理解しています。
そうしたなかで、「長期生存率が3割ではなく6〜7割に上がった」という事実は、日々生活する気持ちにも大きく影響します。自分の未来に自信が持てるようになるというか。具体的には、娘や妻と、将来の約束をすることに弱気になる必要がなくなりました。
だから今は、娘や妻とも、近い将来だけではなく、娘が大人になる遠い将来の話も心置きなくできます。
もちろん3〜4割の確率で、再発して死に至るという可能性はありますが、これまで2つのがん(悪性脳腫瘍、急性リンパ性白血病)を乗り越えてきた経験から、自分は生き残る方の6〜7割に入れるという確信めいたものを持っています。
その確信の背景にある考え方は、著書「治るという前提でがんになった 情報戦でがんに克つ」の4章にも書きました。若干スピリチュアルな内容ですが、やはり人間の生死には、人智を超えた存在が関わっていると考えざるを得ない経験を、今回の入院でもしました。医学やサイエンスだけでは説明のつかない部分です。
その辺は、これから書く2冊めの著書で書いていければと思っています。